「先月の介護の請求が急に上がったのですが、上限のようなものはありませんか」
あります。高額介護サービス費といい、1か月の自己負担が上限を超えた分が後から戻ります。上限は所得の区分で決まり、月140,100円から15,000円までの6段階です。2026年8月1日から、市町村民税非課税世帯の判定に使う所得の基準額が80.9万円から82.65万円になりました。上限額そのものは変わっていません。
高額介護サービス費は、1か月の自己負担が上限を超えた分の払い戻し
高額介護サービス費は、介護保険法(平成9年法律第123号)第51条第1項に定められた給付です。要支援の方の高額介護予防サービス費は同法第61条第1項に別に置かれています。1か月に支払った介護サービスの自己負担額を合計し、その方の所得区分ごとの上限額を超えた分が、あとから振り込まれる仕組みです。
私は磐田市見付でサービス付き高齢者向け住宅「ふじがおか見付連理枝」、ふじがおか見付デイサービス、ふじがおか訪問介護センターの3つを運営しています。つまり、利用料をいただく側です。その立場で書くと、この制度は「請求書を出す側」からは見えません。上限を超えたかどうかを計算するのは市町村で、事業所ではないからです。事業所の請求書には上限の話は一切出てきません。だから家族が自分で知っておく必要があります。
上限額を決めているのは介護保険法施行令(平成10年政令第412号)第22条の2の2と第29条の2の2です。世帯単位の区分と個人単位の区分があり、同じ世帯に65歳以上の方が2人いれば、2人分の自己負担を合算して世帯の上限と比べます。介護保険2割負担の拡大は?磐田の家族が今できる確認で書いた負担割合証は「1回あたり何割払うか」の話で、こちらは「1か月でいくらまでか」の話です。別の仕組みです。
2026年8月1日に変わったのは上限額ではなく、区分に入る「入口」
2026年8月1日から、市町村民税世帯非課税の方のうち低い上限額が適用される区分について、判定に使う所得の基準額が80.9万円から82.65万円に変わりました。根拠は健康保険法施行令等の一部を改正する政令(令和8年政令第219号)で、2026年6月25日公布です。厚生労働省老健局長の通知(老発0625第3号)が同日出され、介護保険最新情報Vol.1516として周知されています。
ここが意外なところですが、上限額の金額そのものは1円も動いていません。140,100円・93,000円・44,400円・24,600円・15,000円という5つの数字は、2021年8月の見直しから据え置かれたままです。動いたのは、下から2番目の区分に入れるかどうかを分ける線だけです。
なぜ動いたのか。通知の第1「改正の趣旨」にはこう書かれています。「令和7年の国民年金法(昭和34年法律第141号)第27条に規定する老齢基礎年金(満額)(20歳から60歳になるまでの保険料を全額納めた際の年金額をいう。)が 80.9 万円を超えることを踏まえ、低所得者の自己負担に影響が出ないよう、必要な改正を行うもの。」
つまり、年金の満額が線を追い越してしまったから、線のほうを動かした、という改正です。何かを手厚くしたわけではなく、年金だけで暮らす方が区分から押し出されるのを防いだ、と読むのが正確です。前年の公的年金等収入金額とその他の合計所得金額の合計が80.9万円から82.65万円のあいだにある方は、この改正がなければ上限が月15,000円の区分から外れていた計算になります。
数字を月と日に割り戻すと、区分がひとつ違う重さがわかる
金額の差を、月と日に割り戻しておきます。分母は私が置いたものなので、ざっくりした目安として読んでください。市町村民税課税世帯の44,400円と、非課税世帯の24,600円の差は月19,800円です。12か月では237,600円になります。
さらに、非課税世帯の24,600円と、年金収入等が82.65万円以下の方の15,000円との差は月9,600円。1日あたりに直すと約320円です。磐田市の65歳以上の介護保険料の基準額は月5,600円ですから(磐田市の介護保険料はいくら?基準額は月5,600円)、区分がひとつ違うだけで、保険料の1.7倍前後の金額が毎月動くことになります。
| 44,400円と24,600円の差 | 月19,800円。年237,600円。市町村民税が課税か非課税かで分かれる |
|---|---|
| 24,600円と15,000円の差 | 月9,600円。年115,200円。1日あたり約320円。前年の年金収入等が82.65万円以下かどうかで分かれる |
| 140,100円と44,400円の差 | 月95,700円。同じサービスを同じだけ使っても、課税所得で年間100万円以上の差が出る |
言い切っておきます。高額介護サービス費は、サービスを使いすぎた方を救う制度ではありません。所得の区分でほぼ決まる制度です。デイサービスの回数を1回減らしても上限額は動きません。
対象にならない費用がある。ここを取り違える方が多い
高額介護サービス費の対象は、介護保険から給付されたサービスの自己負担分に限られます。介護保険法施行令第22条の2の2第2項は、居宅介護サービス費、地域密着型介護サービス費、施設介護サービス費などが支給された部分の負担を対象にすると定めています。裏を返すと、次の費用は上限の計算に入りません。
| 福祉用具購入費 | 特定福祉用具販売の自己負担分は対象外 |
|---|---|
| 住宅改修費 | 上限20万円の住宅改修の自己負担分は対象外(介護保険の住宅改修20万円、磐田市の申請は工事の前) |
| 介護保険施設の食費・居住費 | 特別養護老人ホームなどの食費・居住費は対象外 |
| サービス付き高齢者向け住宅の家賃・共益費・食事代 | 賃貸借契約に基づく費用で、介護保険の給付ではないため対象外 |
なお、医療機関や薬局で支払った自己負担は、高額介護サービス費の計算には入りません。医療費には高額療養費という別の上限制度があり、同じ月に医療費と介護費が重なっても、まず別々に計算します。両制度の対象・申請先・2026年8月以降の違いは、高額療養費と高額介護サービス費の違い|2026年8月に整理しました。
ひとつ、私が確認できていないことを書いておきます。区分支給限度基準額を超えて全額自己負担になった分と、施設の日常生活費が上限の計算に入らないことについて、厚生労働省の通知にはっきり書かれた一文を、私は今回見つけられませんでした。施行令の条文の立て付けからは対象外と読めますし、市町村の案内もそう説明していますが、根拠の一文を示せないので「そう読める」と書くにとどめます。ご自身の分を確定させたい方は市の窓口で確認してください。
良い点は2つ、注文したい点も2つ
まず良い点から数えます。1つ目は、申請の負担を国が減らそうとしている点です。厚生労働省は2025年6月4日の事務連絡(介護保険最新情報Vol.1390)の別添で、保険者に対し「申請書の記載内容の工夫などにより、申請は初回のみで足りるようにする」「申請時に利用者負担額の申告及び領収書の添付を求めない」「初回申請時に指定した口座に振り込む」と求めています。毎月レシートを集めて役所に行く、という形にはなっていません。
2つ目は、今回の改定そのものです。年金が上がると低所得の区分から押し出されるという逆転を、政令で追いかけて消しています。金額を増やす改正ではありませんが、放置すれば上限が月15,000円から24,600円に上がる方が出ていました。地味ですが、家計に対しては誠実な直し方だと私は思います。
その上で、注文したい点が2つあります。1つ目は、改定が現場の説明資料に降りてくるのが遅いことです。厚生労働省が運営する「介護サービス情報公表システム」の解説ページは、2026年8月29日に私が見た時点で、基準額が80.9万円のままでした。国が6月25日に公布した内容が、国自身の一般向けページに2か月経っても反映されていません。家族が最初に見るのはこういうページです。
2つ目は、支給される時期に国の定めがないことです。申請すればいつ振り込まれるのかは、市町村ごとに運用が違います。利用月のおおむね2か月後に案内が届く、と書いている自治体はありますが、全国共通の期限ではありません。介護の費用で不安になっているご家族が一番知りたいのは「いつ戻るか」なのに、そこだけが各自治体任せになっています。一事業者としては、せめて目安の月数を国が示してほしいと思っています。
運営する側から言うと、この制度は「使いすぎ」を止める話ではない
ここからは私の意見です。該当する現場の一場面が手元の記録にないので、体験談としてではなく考えとして書きます。
ご家族から利用料の相談を受けるとき、最初に出てくるのは「使いすぎでしょうか」という言葉です。デイサービスを週3回から2回に減らそうか、訪問介護を短くしようか、という話になりやすい。けれども上限額を決めているのは所得区分であって、利用回数ではありません。回数を減らして下がるのは自己負担そのものであって、上限額ではないのです。上限に届いている方が回数を減らすと、戻ってくる額が減るだけで、手元に残る現金はほとんど変わらないこともあります。
だから私は、回数の話をする前に、負担割合証と課税・非課税の状況を見ることをおすすめしています。順番が逆になると、必要なサービスから先に削ることになります。磐田市の高齢者等在宅福祉サービス、使える11事業のように介護保険とは別枠の助成もあるので、削る前に見るところはまだあります。
今日できる確認は3つ
今日、結論を出す必要はありません。次の3つだけ手元で確かめておくと、次にケアマネジャーと話すときに話が早くなります。
| 1. 負担割合証を見る | 介護保険負担割合証に1割・2割・3割のどれが書かれているかを確認する。有効期間は毎年8月1日から翌年7月31日 |
|---|---|
| 2. 世帯の課税状況を見る | 親御さんの世帯が市町村民税非課税かどうか。非課税なら、前年の公的年金等収入金額とその他の合計所得金額の合計が82.65万円以下かどうか |
| 3. 過去に申請したことがあるか確認する | 通帳に市町村からの振込があるか。一度も申請していないなら、2年の時効内であればさかのぼれる可能性がある |
3つ目は見落とされがちです。初回の申請をしていなければ、上限を超えていても自動では戻りません。親御さんが自分で手続きしたつもりでいるかどうかは、通帳を見るのが一番早い方法です。
関連する確認として、高額医療・高額介護合算制度|磐田市の確認先では、家族が準備する内容と依頼先への確認を分けて整理しています。
よくあるご質問
高額介護サービス費の申請は毎月必要ですか。
多くの市町村では初回の申請だけで足ります。厚生労働省は2025年6月4日の事務連絡で、保険者に対し「申請は初回のみで足りるようにする」「初回申請時に指定した口座に振り込む」といった負担軽減を求めています。ただし運用は市町村ごとに違うため、まだ一度も申請していない場合は、まず市の窓口に申請の有無を確認してください。
サービス付き高齢者向け住宅の家賃や食事代も上限の対象になりますか。
なりません。高額介護サービス費の対象は、介護保険から給付されたサービスの自己負担分だけです。サービス付き高齢者向け住宅は賃貸住宅なので、家賃・共益費・食事代は介護保険の給付ではなく、上限の計算に入りません。同じ住まいで使っているデイサービスや訪問介護の自己負担は、介護保険の給付なので対象に入ります。
何年前の分までさかのぼって申請できますか。
介護保険法第200条第1項により、保険給付を受ける権利は行使できるときから2年で時効消滅します。起算点はサービスを受けた月の翌月1日です。たとえば2026年1月に利用した分なら2028年1月末までが目安になります。過去に申請していない月がある場合は、通帳の振込記録を見て市の窓口に相談してください。
この記事を書いた人:大石浩之(磐田市/不動産業・宅地建物取引士)
磐田市見付でサービス付き高齢者向け住宅「ふじがおか見付連理枝」、ふじがおか見付デイサービス、ふじがおか訪問介護センターを運営する富士ヶ丘サービス株式会社の代表取締役。介護施設の運営から不動産事業を始め、実家じまい・相続の相談も一件ずつ受けています。プロフィール
参考にした公式情報
- 厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1516/老発0625第3号 健康保険法施行令等の一部を改正する政令の公布について(通知)」2026年6月25日(2026年8月確認)
- 厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1390/老介発0604第1号」2025年6月4日(2026年8月確認)
- e-Gov法令検索「介護保険法(平成9年法律第123号)」第51条・第61条・第200条(2026年8月確認)
- e-Gov法令検索「介護保険法施行令(平成10年政令第412号)」第22条の2の2・第29条の2の2(2026年8月確認)
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム/サービスにかかる利用料」(2026年8月確認。同日時点で基準額は80.9万円のまま)
- 磐田市公式ウェブサイト「高額介護サービス費」2026年3月3日更新(2026年8月確認)
制度・自己負担・利用条件は個別の状況と時期で変わります。ここに書いたのは一般的な整理です。所得区分の判定は市町村が行い、世帯の構成や課税状況によって結果が変わります。ご本人の状況にあてはまるかどうかは、担当のケアマネジャー、地域包括支援センター、市の窓口でご確認ください。