「施設の見学、何を見てくればいいんでしょうか」
建物より先に、契約書と重要事項説明書をもらって帰ってください。国民生活センターが集計した有料老人ホームに関する消費生活相談(2024年度834件)で、内容の1位は解約248件、2位は契約書・書面237件、3位は説明不足156件でした。もめているのは設備ではなく、契約と説明です。
見学で見るべきものの半分は、建物の中にない
介護施設の見学というと、居室の広さ、食堂の明るさ、廊下の手すり、スタッフの表情。目に見えるものを見に行くつもりで出かける方がほとんどです。ところが、入居後に実際にもめる場所は、そこではありません。書面と説明のほうです。
根拠になる集計があります。国民生活センターが、厚生労働省の「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」(第2回、令和7年4月28日)に提出した資料「有料老人ホームに関する消費生活相談の概要について」です。全国の消費生活センターに寄せられた相談を集めたPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)の登録分にもとづくもので、2024年度の相談件数は834件でした。
2024年度の相談内容は、1位が解約、2位が契約書・書面
国民生活センターの同じ資料に、相談内容の上位10項目が件数とともに載っています。複数回答の項目なので、上位10項目の合計は総件数の834件を超えます。割合は834件に対する比率です。
| 順位 | 相談内容 | 件数(2024年度) |
|---|---|---|
| 1位 | 解約(全般) | 248件 |
| 2位 | 契約書・書面(全般) | 237件 |
| 3位 | 説明不足 | 156件 |
| 4位 | サービス付き高齢者向け住宅 | 146件 |
| 5位 | 返金 | 145件 |
| 6位 | 修理代 | 131件 |
| 7位 | 高価格・料金 | 122件 |
「説明不足」の動きが気になりました。2022年度は207件で6位、2023年度は191件で6位、そして2024年度は156件で3位。件数は2年で51件減っているのに、順位は3つ上がっています。相談の総数が減るなかで、説明の食い違いだけが残った形です。数を減らすことと、話が通じることは別だと私は読みました。
834件という総数も、置き換えて見ておきます。1年365日で割ると1日あたり約2.3件(私の計算)。全国の数としては、決して多い数ではありません。ただ、相談する側から見れば自分の親の1件がすべてです。全体の件数の少なさは、自分の家の話には何の慰めにもなりません。
見学で確認したい5つのこと
もめている場所が分かれば、見学で確認する項目も逆算できます。5つに絞ります。私は施設を運営している側なので、この5つは自分が聞かれる側の質問でもあります。
- 契約書と重要事項説明書を、その日にもらって帰る。相談の2位が「契約書・書面」です。その場で読み切るのは無理なので、持ち帰って家で読む前提にしてください。渡してもらえない場合、その理由を聞くところから話が始まります。
- 退去をお願いされるのは、どんな場合かを聞く。相談の1位が「解約」です。医療的な処置が必要になったとき、長期入院したとき、費用の支払いが滞ったとき。条件は施設ごとに違います。口頭の答えを聞いたあと、重要事項説明書のどこに書いてあるかを一緒に確かめてください。
- 月額に「含まれていない費用」を全部書き出してもらう。含まれている項目を聞いても比較になりません。介護保険の自己負担、水道光熱費、通信料、おむつ代、通院の付き添い、理美容。含まれない項目の数が、住み始めてからの上振れ幅になります。
- 夜間に建物にいる人の数を聞く。見学はたいてい昼間です。夜の様子は、その時間に何人いて、呼んだときにどれくらいで来るのかを聞かないと分かりません。台風や停電のときの動きも同じで、台風の前に、磐田の介護施設に確認したい4つのことに業務継続計画の確認のしかたを書きました。
- 説明された内容が、書面のどこに載っているかを確かめる。相談の3位が「説明不足」です。見学で聞いた説明と、契約書の条文が食い違えば、優先されるのは書面のほうです。聞いたその場で「これは何ページに書いてありますか」と確かめるだけで、後の食い違いはかなり減ります。
退去後に修繕費を請求されて困っている場合は、契約書と記録を照合する老人ホームの退去費用|磐田の家族の確認手順も確認できます。
種別が違えば、契約の形も違う
見学先を並べるとき、種別をそろえないと比較になりません。サービス付き高齢者向け住宅は高齢者住まい法にもとづく登録制の賃貸住宅、有料老人ホームは老人福祉法にもとづく施設です。契約書が「賃貸借契約+サービス契約」に分かれているか、ひとまとめの入居契約かという違いが出ます。
この違いは、退去の話に直結します。賃貸借契約が土台なら、住まいの契約とサービスの契約を別々に考えることになる。ひとまとめなら、まとめて動きます。種別ごとの整理はサ高住と有料老人ホームの違いを磐田の目で見るに、費用の考え方はサ高住と特養の費用差、2026年8月の改定でどう変わるに書いています。
運営する側から言うと、この5つは聞かれたくない質問です
私は磐田市見付でサービス付き高齢者向け住宅「ふじがおか見付連理枝」、ふじがおか見付デイサービス、ふじがおか訪問介護センターの3つを運営しています。見学を受ける側です。以下は特定の見学者の事例ではなく、運営する側としての私の考えです。
正直に書くと、上の5つは、施設の側からするとどれも答えるのに手間がかかる質問です。とくに2番目の「退去をお願いされるのはどんな場合か」は、契約前にいちばん出したくない話です。せっかく気に入っていただいた場に、出ていく話を持ち込むことになるからです。
それでも、この5つを書いておくほうがいいと判断しました。相談の1位が解約だという数字を見たあとで、書かない理由が私には見つかりませんでした。迷いは残っています。見学に来ていただく側の立場としては、あらかじめ身構えられるより、話しながら順に説明したい。ただ、その「順に」が結果として説明不足に見えるのだとしたら、先に全部書いておくほうがましだと今は思っています。
今日できる確認は2つ
見学の予約を今日入れる必要はありません。行く前に手元で終わることが2つあります。
- この記事の5項目を、紙かスマートフォンにメモして持っていく。その場で思い出せる人はいません。書いて持っていくだけで、聞き漏らしが減ります。
- 見学先を2か所以上に増やす。1か所だけだと、聞いた答えが業界の標準なのか、その施設の条件なのかが分かりません。比べる相手があって初めて、答えの意味が分かります。
そして、見学の前にケアマネジャーか地域包括支援センターへ一度相談してください。要介護度や費用の条件によっては、住み替えより在宅のまま組み直すほうが合う場合があります。窓口の一覧は磐田市の介護相談窓口に、介護の順番そのものは介護を知るにまとめました。うちに来ていただく必要はありません。今日、決めるための材料が1つ増えれば十分です。
よくあるご質問
介護施設の見学では、まず何を確認すればよいですか。
契約書と重要事項説明書をその日にもらって帰ることです。国民生活センターが厚生労働省の検討会に提出した集計では、有料老人ホームに関する消費生活相談の内容は2024年度で1位が解約(全般)248件、2位が契約書・書面(全般)237件でした。もめているのは設備ではなく契約の中身なので、書面を持ち帰って落ち着いて読むのが先だと私は考えています。
見学は1か所だけでもよいですか。
2か所以上を見ることをおすすめします。1か所だけだと、その施設の説明が業界の標準なのか、その施設だけの条件なのかが分かりません。比べる相手があると、月額に含まれない費用や退去を求められる条件のような、答えにくい項目の差が見えてきます。急いで決める必要はありません。
見学で聞きにくいことは、どう聞けばよいですか。
「どんな場合に退去をお願いすることになりますか」「月額に含まれない費用を全部教えてください」のように、施設の落ち度を問う形ではなく、条件を教えてもらう形で聞くと答えが返ってきやすくなります。口頭の答えは、あとで重要事項説明書のどこに書いてあるかを確かめてください。書面と口頭が食い違う場合は、書面が優先されます。
この記事を書いた人:大石浩之(磐田市/不動産業・宅地建物取引士)
磐田市見付でサービス付き高齢者向け住宅「ふじがおか見付連理枝」、ふじがおか見付デイサービス、ふじがおか訪問介護センターを運営する富士ヶ丘サービス株式会社の代表取締役。介護施設の運営から不動産事業を始め、実家じまい・相続の相談も一件ずつ受けています。プロフィール
参考にした公式情報
制度・自己負担・利用条件は個別の状況と時期で変わります。ここに書いたのは2026年8月28日時点の一般的な整理です。相談件数はPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)の2025年3月31日までの登録分にもとづくもので、複数回答の項目を含みます。年度によって集計の背景が異なるため、件数の単純な比較には向きません。特定の事業者や施設についての評価ではありません。1日あたりの件数は総件数を365で割った私の計算で、公表値ではありません。ご本人の状況にあてはまるかどうかは、担当のケアマネジャー、地域包括支援センター、市の窓口でご確認ください。